『大辞泉』2.0リリース。無料モデルの終息とその総括

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iOSアプリ『大辞泉』ですが、バージョン2.0をリリースしました。そして、とても大切なお知らせがあります。『大辞泉』は2.0から有料アプリになります。

『大辞泉』は、バージョン1では無料アプリとして配信し、ソーシャルゲーム的な利用回数を設定しました。これは好評を得たのですが、その成果を収益に結びつけることができず、このままの状態では事業の継続が困難となりました。ライセンサーからも現状を憂慮した強い働きかけがありましたので、無料での配信は終息し、有料アプリとして再出発することとなりました。

いままで無料で使っていた方は、利用可能回数がなくなり次第、検索結果の表示ができなくなります。引き続き利用する場合は、「利用可能回数制限の解除」ライセンスを購入してください。詳しくは、こちらのFAQをご覧ください。

有料化となりましたが、まだまだ開発は続きますので、引き続き『大辞泉』をよろしくお願いします。

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ということで、『大辞泉』の無料化は終わったのですが、そもそも無料でリリースしようとした背景には、強い危機感がありました。どういうことかというと、スマートフォンのアプリ市場は広がっているものの、売れているのはソーシャルゲームばかり。有料アプリのダウンロード数はどんどん下がっている。ユーティリティアプリの開発をメインとする弊社は、このままではジリ貧ではないか。この状況を打開するには、無料で配布して後で課金する、いわゆるフリーミアムモデルを、辞書のようなユーティリティアプリでも導入するべきではないか。

思い描いていた戦略は、こうでした。まず、アプリを無料化してユーザ数を確保する。そして、ソーシャル的なつながりを演出することで、アプリの稼働時間を長くする。これにより、ヘビーユーザが課金してくれる。

「ソーシャル的なつながり」として、他のユーザが検索した言葉を表示する「コトバストリーム」であるとか、小学館の編集部が行った「あなたの言葉を辞書に載せよう。」キャンペーンであるとか、自分の考えた言葉を投稿できるようにした、「みんなのコトバ」機能とかを実装しました。

その結果は、どうだったのか?結論を言えば失敗だったのですが、ここで総括したいと思います。具体的な数字も出していきます。

まず、最初の目標であるユーザ数の確保。これはどうだったのか?『大辞泉』は、2013年の5月17日に公開して、2014年の4月7日まで無料でした。11ヶ月弱というところです。この間のダウンロード数は、151,186。15万を超えたところでした。

この数が大きいのか?辞書アプリとしては、充分に大きいと考えています。長らく辞書アプリに携わってきましたが、『大辞泉』のようなフルサイズの辞書が一年かからずに十数万ダウンロードされるというのは、トップレベルだと思います。やはり辞書の需要は強いのだと感じました。もともと2,000円で販売されていた物が無償になった、というインパクトもあったでしょう。

もちろん、無料アプリにさえしてしまえば、ある程度のダウンロード数があるのは想定できました。重要なのは稼働時間です。結構多いのが、無料だからダウンロードしたけど、その後も一回も使われずに削除される、っていうパターンです。どのくらいのユーザが使い続けてくれているのか、というのが気になるところです。

これは統計を取れるようにしています。コトバストリームを実装したときからです。コトバストリームを有効にしていると、サーバに検索した語句を登録します。これを使って、大体の稼働率を推測することができます。コトバストリームの稼働を始めたのが去年の11月からなので、4ヶ月程度での統計となります。

まず、総検索語句数。これが、約400,000。一日平均にならすと約3,000。30秒に一回、誰かがアプリを使って検索してくれている、という計算です。確かにコトバストリームを確認すると、一分とたたずに誰かが新しい語句を検索していますからね。

次にユーザ数。4ヶ月間で実際にアプリを使って検索をしたユニークユーザ数は、約41,000。総ダウンロード数の27%になります。1/4強のユーザが、ちゃんと使ってくれていました。一日平均を求めると1,250。直近7日間のユニークユーザ数は5,000。

これらの数を少ないと見るか、多いと見るか。辞書アプリとして考えれば、充分に多い。有料のユーティリティアプリならば、この程度の数は充分に多いと考えていい。でも、無料サービスとして考えるならば、多くはないですね。

そして、最後に最も重要な課金率。製品の購入と同等となる「利用回数の制限を解除」を、どれだけのユーザが購入してくれたか。その課金率は、ズバリ0.5%。1%いきませんでした。正直にいって、これはかなり低い。採算とれるかどうかのラインは5%程度なので、まったく届いていない。

ここまで低いと、宣伝がうまいくいかなかったとか、製品のできがどうとかの前に、戦略が間違っていたとしか言いようがないです。ここで言い切ってしまいますが、辞書アプリでのフリーミアムモデルは、戦略的に間違いでした。少なくとも、「利用回数の制限を解除」をユーザに購入してもらうビジネスモデルでは成り立ちません。じゃあ、広告を入れるようなモデルでは?と考えても、いまのユーザ数では広告は無理ですね。というか広告モデルにするなら、Webサービスにした方がいい。

結論としては、ユーザ数が増えて、稼働率もそこそこ上がったけど、課金にはまったく結びつかない、ということでした。このまま無料を続けても課金率が上がる見通しはなく、赤字がふくれあがる一方なので、終息させざるをえません。

リリース前にいろいろとシナリオを予想していたましたが、悪い方で決着しました。ただ、挑戦したこと自体は、間違っていたとは思っていません。この結果をもとに、修正をしていきます。

今後は、有料アプリとしての開発となります。従って、方針も変わることになります。バージョン1までは、ユーザ数を増やすためにソーシャル的なつながりを掲げていました。バージョン2からは、そちらは縮小します。ここからは、語句をいかに素早く効率よく検索できるかという、辞書としての検索機能の向上を目指します。辞書の検索は、まだまだ改良の余地があるんです。まずは、近々新語の追加がありますので、そのときにも強化を含めていきます。

結局、有料アプリの販売数が下がっている、という問題は解決していません。でもフリーミアムもその解決策にはならないということは分かりました。少なくとも、辞書では。また新たな策を探しにいきます。

    • Yoshiki
    • 2014年 4月8日

    これは意外でした。今や有料アプリにお金を払う人はほとんどいない。でもアプリ内課金なら比較的払ってくれる。と聞いていましたから。それにこの方法ならお試し版を禁止しているApple社の規約に触れずに、使い勝手を無料で試してもらうことができますし、上手い方法を考えたなと思っていました。稼働率の割りに課金が少ないということは、辞書は意外と連続では使わないということでしょうか。それにしてもアプリを作るには莫大な工数がかかるのだから、便利で使えると思ったら対価を払うべきだと思うんだけどなぁ。

      • mkino
      • 2014年 4月8日

      ユーザは工数ではなくて、使用感にお金を払うので、対価の話はどこまでいっても平行線ですね。
      ユーザの使用感を向上するところと工数が結びつけばいいんですけど。それもままならない。

    • fladdict
    • 2014年 4月8日

    偉大なチャレンジだっただけに残念です。
    辞書が「めったに起動しない」という属性を持つので、ソーシャルゲーモデルが機能しなかったのかなとは思いますが、難しい問題ですね。

      • mkino
      • 2014年 4月8日

      自分でも使いながら、「5回使えれば充分だよなぁ」とは感じてました。
      ソーシャルゲームモデルでいくなら、enthusiasmは必須かと。熱中さというか、中毒性というか。
      中毒性を出すために、大辞泉を題材にしたゲームってのも企画は進んでいたんですけど、お金が確保できず断念しました。

  1. 僕も個人ですが細々とアプリ開発をやっています。
    「Seeq+」という検索アプリを開発しており、勝手ながら「大辞泉」との連携もさせていただいています。
    Seeq+も基本無料のフル機能アドオンによるフリーミアムモデルでスタートしましたが、やはり収益性は低くランキングも伸びずで、結局は有料化しました。ただし、公平を期するために、フル機能アドオンについては残しました。最低価格で導入し、フルに使う場合はアドオンでというスタイルです。
    前身のSeeqは最初から最後まで有料アプリだったため、そのときの安定感と比べると確かに失敗でした。ツール系のフリーミアムは中々厳しいと感じています。

    • viivle
    • 2014年 4月8日

    新しい試みとして注目していたのですが、やはり難しいものなんですね。
    私もアプリを個人で開発しています。良いアプリを作ろうと会社を辞めて続けてきましたが、まったく収入にはなりませんでした。「大辞泉」ほどのアプリが難しいということですと、私がアプリ開発を諦める切っ掛けには十分です。
    今後どう収入を得るかという切実な問題は置いておいて(一番大事なことを置いておいてどうするんだというのもありますが)、今後は趣味程度でアプリを開発していこうかと思い始めています。

    私は本郷に住んでまして、勝手にですが、HMDTさんに親近感を持っておりました。これからも応援しています。

    • Sora
    • 2014年 4月8日

    知らない言葉の意味を調べるために、「大辞泉」でなければならないという必然性が少ないので、
    おそらく回数制限に達した時には、別の無償のWEBサービスなどに繋げ直してしまうのでしょうね。

    個人的には、ネットワーク環境が無くとも、常に辞書が引けることに重きをおいており、
    無料化の前に既に有償版の方を入れていたので、あまり意味がありませんでしたが、
    興味深い試みだったと思います。そして、結果を公表してくれるのはとてもありがたいです。

    別の課金方法として期間ごとに○○円(カーナビ等にありますね)というのも考えられますが、
    買い切り2000円のアプリの価値を認めたとしても、1年間300〜400円くらいじゃないと手を出さないと思います。

    • flat
    • 2014年 4月9日

    私は大辞泉をインストールはしていましたが、たまに起動して調べ物に使っていただけなので確かにお金を払う必要性は感じなかったですね。
    ところで課金という言葉の使い方おかしくないですか。辞書で引いてみては?

    • Jordic
    • 2014年 4月9日

    これで諦めるには惜しいアイデアだとおもいます。これに懲りず、ぜひアグレッシブに攻めて頂きたいです。英和辞典またはその他外国語辞典だとまた状況は違うのではないでしょうか?
    もしよかったら1度飲みにでも行って色々意見交換させて頂きたいです:)

  2. 興味深く読みました。
    弊社でも特定分野ではありますが売り切りのユーティリティアプリを出しており、
    ヒットはしたものの、数百円の売り切りではメンテを継続するのも難しいですね。
    ソシャゲの”隣の芝は青い”モデルを見ながら、それとは違う打てる手を模索中です。
    情報交換しませんか?